杉本会計事務所

代表コラム
DIRECTOR
COLUMN

2022.01.31
Contributor:motoki

決算書では見えない企業価値

事業承継対応を含めた中小企業のM&Aは依然として高水準で推移しているようです。そのM&Aにおいて重要事項の一つが会社(企業価値)の価額算定。私たち会計事務所も主として財務調査(デュー・デリジェンス)という形で関わります。

基本的に将来価値の見積りが必要ですが、中小企業ではその根拠となる事業計画がないことも多く、先行き不透明でもあるので、教科書的な将来収益(CF)などではなく、下記のとおり簡便に算定されることも多いのが現状です。

企業価値=株主資本(時価)+営業権(過年度営業利益×3年~5年分)

さらに、上記をベースにしながらも、最終的には売手・買手の経営者同士の相対交渉で決まるので、決定価額に合理的な算定根拠を見出すことはほぼ困難となります。

中小企業M&A実務ではそんな方法で算定される企業価値ですが、上場企業ではより合理的に財務数値から導き出されるのかと言えば、そんなこともないようです。

年明けに米アップル社の時価総額が3兆ドル(約340兆円)の大台を突破しました。これは日本の東証1部上場全企業(2,185社)時価総額(約730兆円)の半分近くになります。

次のとおり、ソニー(グループ)との比較も話題となりました。

・株主資本(決算数値):アップル7兆円/ソニー7兆円(ほぼ同額)
・時価総額(市場価額):アップル340兆円/ソニー18兆円(約30分の1)

株主資本と時価総額の差は「非財務資本」と呼ばれ「企業が将来生み出す収益への期待値」とされますが、アップル自体の非財務資本の金額も、そのソニーとの差異も、過年度業績等やその他の財務情報ではもはや説明ができません。

この非財務資本には様々な要素が含まれますが、今後これを高める中核となるのはESG(環境・社会・企業統治)への取組み・開示であり、「気候変動対応」の次に「人的資本」が重視され、以下のアプローチが求められています。

・企業目的(パーパス・戦略等)の再定義
・企業目的達成のための必要人材の明確化
・現有人材と必要人材とのギャップの見える化
・ギャップを埋める現有人材のリスキリング(再教育)
・不足人材の採用

こうしたアプローチは、上場企業が実践・開示し非財務資本を高めるという文脈で求められますが、決して新規性のある内容ではなく(とは言え簡単なことでもなく)、経営環境が大きく変化し人材不足が常態化する中で、上場有無や企業規模によらず、全ての企業が検討すべき経営課題となっています。

「企業は人なり」と言われますが、その人的資本を高められるか否かは、突き詰めれば、そこに属する個々人の意識レベルと能力をいかに高めるか、にかかっています。

企業目的の再定義に応じ、組織が求める能力アップを目指すリスキリング(上記)だけではなく、個人が自らの意思で学び直しを繰り返しキャリアップを図るリカレント教育も求められます。

社会や組織は今、どういう人材を求めているのか、その中で自分は何をやりたいのか・やれるのか、その実現のためにどういう意識でどう努力するのか。

これはもう、人生100年時代における生涯テーマと言えそうです。

私もまだまだ挑戦を続けて行きたいと思っています。

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