杉本会計事務所

代表コラム
DIRECTOR
COLUMN

2018.12.01
Contributor:motoki

新事業承継税制を考えるⅡ「持株会社スキーム」

前回コラムにて新事業承継税制の基本的な検討事項をまとめ、その最初の項目として「先代経営者は株式を無償で譲り渡すことで本当によいのか」を挙げました。

オーナー企業において高株価すなわち内部留保が厚いのは、これまでの事業経営において「企業利益と役員報酬の二者択一(トレードオフ)」を判断する中で、相対的に役員報酬を押さえて来た結果と考えられます。そうであれば、後継者に事業は譲るにしても、先代経営者が内部留保(キャピタルゲイン)を享受することを考えても不思議ではありません。そうした企業では、後継者に無償で株式を譲り渡す事業承継税制は必ずしも適さないと思われます。

キャピタルゲインを得る方法として次の方法が考えられます(M&Aを除く)。

・後継者への株式譲渡
・自社による自己株式買取り

しかしながら、前者は後継者の「買取資金の調達」が、後者は先代経営者に対する「みなし配当課税(累進税率)」が、それぞれネックになります。

そこで浮上するのが「持株会社による自社株式買取り」で、その概要は下記のとおりです。

① 後継者の出資による持株会社の設立
② 持株会社による自社株式買取資金の調達
③ 持株会社による先代経営者からの自社株式買取り
④ 持株会社による自社の100%子会社化(株式交換等の活用を含む)
⑤ 自社から持株会社への配当金支払い
⑥ 持株会社は配当金を原資として借入金を返済
⑦ 先代経営者の株式譲渡所得税の納税
⑧ 持株会社活用による事業展開

この典型的な持株会社スキームのポイントは、以下の3点になります。

・先代経営者が得る株式譲渡代金、すなわち持株会社の借入金返済財源の全額が、自社の内部留保からの配当金支払により賄われていること
・その配当金は持株会社において無税であること(受取配当金の益金不算入)
・先代経営者の税額負担が低率であること(約20%の所得税分離課税)

自社株式が現預金に置き換わるだけで先代経営者の相続対策にはならないとする見方もありますが、現預金シフトによる財産評価額の固定化と納税資金の確保が可能となり、何よりも経営の自由度が高いことが、事業承継税制に比べ大きなメリットとなります。

事業承継に際して、先代経営者がキャピタルゲインの享受を望まれ、さらに持株会社による事業展開を志向される企業には有効な方法であると考えています。

とは言え、持株会社の活用は、事業承継の一手法に過ぎません。

新事業承継税制も、まず計画を策定することから始まります。事業承継は文字通り「事業」の承継と継続、そして雇用の維持が重要なテーマになりますので、「株式」の承継とその税制面のメリットも考慮した上で、事業と雇用を維持継続していくためにはどのような事業承継の方法が望ましいのか、事業譲渡、組織再編、M&A等の方法も幅広く検討した上で計画を立てる必要があります。

私たちもそうした視点から、個々のクライアントに相応しい事業承継のあり方をアドバイスさせて頂ければと考えています。

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