杉本会計事務所

代表コラム
DIRECTOR
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2019.07.15
Contributor:motoki

バランスシートの動的活用のすすめ

最近は中小企業のM&Aも増加傾向にあり、売買価額算定のための財務調査(買収監査やデュー・デリジェンスとも言います)を行う機会が増えています。

中小企業M&Aにおける売買価額の算定は、評価が難しい将来収益価値よりも純資産価値が中心となり、貸借対照表(バランスシート)の内容が重要になりますが、自社のバランスシートを十分に把握している中小企業は必ずしも多くないようです。

ROE(自己資本利益率)も含め、ここ数年大企業を中心にバランスシートにより着目した経営管理が行われるようになっています。そのポイントは3つあると思います。

・資産・負債の残高及び増減内容の継続的把握
・適正なキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の設定
・目標となる投下資本利益率(ROIC)による事業管理

日々の経営においては売上・コスト等の損益項目に意識が集中しがちですが、資産・負債の中味や動きをタイムリーに把握しないと、事業経営の血液である資金の流れが的確に見えません。

決算時のみならず月次決算において、バランスシート項目の内訳内容とその増減を把握することが財務管理の理想です。

CCCは売掛金と在庫の回転日数の合計から買掛金の回転日数を引いた数値。仕入れて売り上げて代金回収までの必要運転資金量を日数で示したものです。

アマゾンやアップルはこの数値が20日から30日のマイナスで、事業が拡大するほど資金が溜まる事業構造になっています。日本企業は大企業でもプラスの60日以上、中小企業だと90日以上のところも多く、事業が拡大するほど資金が必要となります。

CCCを短縮し資金繰りを改善するためには回収条件や支払条件を取引先任せにせず、また期末だけでなく期中の在庫水準も目標を定め常時適正に保つ意識が必要です。

ROICは投じた資金に対してどの程度の利益を生み出しているかを示す指標。投じた資金はバランスシートから、利益は損益計算書から把握します。全社ベースはもちろん、事業ごとに目標値を定めて管理することが望まれます。

ROICを事業別に比較し、拠点(工場や店舗等)・システムなど、資金投下が大きい割に利益が上がっていないものは、損益計算書上の利益率に問題がなくても、資本効率の観点から改善や見直しを図ることが求められます。

バランスシートを決算時に静的に分析するだけではなく、上記のように、常に中味を把握した上で、資産・負債の動きや投資効率等の動的視点を持ち込んで活用する管理手法は、アクティブ・バランスシート・マネジメント(ABM)と呼ばれます。

こうした手法は大企業を中心に導入されていますが、その考え方や視点は、中小企業の経営管理にも重要かつ必要なものと考えています。

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