杉本会計事務所

代表コラム
DIRECTOR
COLUMN

2019.03.17
Contributor:motoki

「日本人の勝算」を読んで

先日のクライアント会議にて、デービッド・アトキンソン著「日本人の勝算」を参加者全員に配布して頂き、私もさっそく読ませて頂きました。
在日30年の英国人である同氏が、外国人アナリスト118人の論文やレポートを分析し、日本の生き残り戦略としてまとめた本著。そのポイントを、5点ピックアップしました。

・日本には今、急激な人口減少と高齢化によるパラダイムシフトが起きており、このままではデフレスパイラルから抜け出せず、途上国に転落する危険すらある。

・GDP(国内総生産)=生産性(1人当たりGDP)×人口として分解されるが、人口減少が進む日本において、デフレスパイラルから脱却しGDPを押し上げるには、生産性を高めるしかない(High road capitalism=高付加価値・高所得資本主義への移行)。

・生産性は、労働生産性・資本生産性・全要素生産性に区分され、日本の場合、全要素生産性が最も低い。全要素生産性の向上には、技術革新・社員の教育訓練・組織改革等が必要であり、創意工夫・発想力・クリエイティビティなどが求められる。

・日本の生産性の低さの最大の要因は「小規模企業の数が多いこと」にある。生産性と企業規模には強い相関があるため、生産性を高めるためには企業規模を拡大する必要がある。

・企業規模の拡大は、企業経営者の自発性に委ねず、国策レベルで実施する必要があり、そのための秘策が「最低賃金の継続的な引き上げ」である。生産性と最低賃金にも(因果律はさておき)強い相関があり、イギリスの実例を主として、最低賃金引き上げによる生産性向上等の経済的効果が、世界中で確認されつつある。

特にインパクトがあったのは、最後の2点、企業規模拡大の必要性についてです。

小規模企業の数の多さ=生産性の低さとする著者は、輸出の拡大、技術の普及、研究開発の促進、人材育成、さらには女性活用に至るまで、企業規模を拡大することでそれらについても向上できるとしています。

数多くの中小企業クライアントに関与する会計事務所の立場からは、「そこまで中小企業を問題視しなくてもいいのでは?」と、かなり考えさせられましたが、指摘の多くは現実の中小企業に当てはまる点が多いと認めざるを得ないと思います。

ただし、その現状に対して、すべての中小企業経営者が(著者が言うように)「これまでの常識に囚われて」手をこまねいているわけではないと思います。

人手不足への対応として、設備投資やシステム導入による省力化も進めながら、在籍社員の賃金水準の向上に努力している企業もあります。また、事業拡大や経営合理化あるいは事業承継対策の出口戦略として、M&Aによる企業規模拡大を図る企業も増加しています。

「日本人の勝算」の指摘を真摯に受け止めつつ、私たちは、クライアントの経営に関わる立場として、国策に頼らない個々の企業による前向きな取り組みとしての生産性の向上や企業規模の拡大を、これからもサポートして行きたいと考えています。

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