杉本会計事務所

代表コラム
DIRECTOR
COLUMN

2019.01.13
Contributor:motoki

ROEは中小企業の経営指標になるか?

2014年にアベノミクス新成長戦略において日本企業の具体的な経営指標とされたROE(自己資本利益率)は、以来非常にポピュラーな財務分析数値になりました。そのため、ここ数年クライアント経営者との話の中でもROEが話題になり、中小企業ではROEとかあまり関係ないですよね?といった趣旨のご質問を頂きます。

そうした質問に対して、概ね次のような説明をさせて頂いています。

① ROEの分解

貸借対照表(BS)の自己資本に対して損益計算書(PL)の当期純利益がどれだけ計上されているか、すなわち自己資本の収益性を表すROEを、まずは基本的な分析として次のとおり分解します。

ROE(自己資本利益率)
=売上高利益率×総資本回転率×財務レバレッジ
=収益性×資本効率×財務バランス

各指標は次とおり算定されます。
・自己資本利益率=当期純利益÷自己資本
・売上高利益率=当期純利益÷売上高
・総資本回転率=売上高÷総資本
・財務レバレッジ=総資本÷自己資本

② ROEのストーリー

上記①は財務分析指標ではよくある分解で、1つの指標を複数指標の掛け算として漏れなくダブりなく展開したものです。

ROEを3つの分解指標に即して言えば、PLの損益構造として収益性が高い事業を、BSの投下資本で効率よく回して展開できるのであれば、借入による事業拡大により企業価値をさらに高めることができる、そういうストーリーがROEの経営指標としての意味合いとして考えられます。

分解算式の左2つの指標の掛け算(売上高利益率×総資本回転率)は、両指標(分数)の売上高を消去すると、投下資本利益率(当期純利益÷総資本)となり、これは最近ROEと共に着目される経営指標(ROAもしくはROIC)となります。

つまりROEは、投下資本利益率の高いビジネスモデルが確立しているか、その事業は借入金を増やし(レバレッジを効かせ)拡大することで企業価値がさらに高まるのか、そのことの判断指標と言えます。

③ROEは 中小企業の経営指標になるか?

非上場企業は上場企業のようにROEを対外的に意識する必要性は低く、ROEを高めるために、自社株買いや配当で財務レバレッジを上げる(分母の自己資本を下げる)といった財務戦略も不要です。また、株式も役員同族100%所有であれば、資本コストとしては負債コスト(借入金利息)を主体として考えればいいと思います。

非上場の特に中小企業の事業経営において散見されるのは、PLで利益が上がると、BSの投下資本の効率をあまり考えず、借入金を増やして横展開や事業拡大を図る(小売業の営業拠点増設、製造業の工場新設や設備投資など)という構図です。

こうした場合、事業拡大により人件費や減価償却費等の固定費は確実に増加しますが、収益が想定ほど上がらないとキャッシュフローが急速に悪化する、といった状況が往々にして起こります。

ROEが指標として優れているのは、3つの主要指標(分解指標)において、売上高と総資本が分子と分母両方に入るので、単に売上が伸びるだけ、総資本が増えるだけ、あるいは借入金を増やすだけでは、総体としてのROE数値が上がらない、という点にあります。

分解3指標をいかにうまくバランスさせるか、まさに経営者の事業センスが問われるところですが、それは、投下資本利益率の高いビジネスモデル、すなわち、収益性と資本効率が高い事業として作り込めていないなら、借入金を増やして事業を拡げてはダメ、ということでもあります。

資金調達手段が借入金主体となる中小企業においては、損益構造と財務構造の両方に規律を持ち込む指標として、ROE及びその分解指標を活用する意味はあるのではないか、そう考えています。

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