杉本会計事務所

代表コラム
DIRECTOR
COLUMN

2018.12.01
Contributor:motoki

新事業承継税制を考えるⅠ「基本的検討事項」

今年から導入された新事業承継税制について、ご相談を頂く機会が多くなってきました。その中で、必要と考える基本的な検討事項を6点挙げたいと思います。

① 先代経営者は株式を無償で譲り渡すことで本当によいのか
事業承継税制は、先代経営者から後継者に株式贈与を行い、その贈与税について納税猶予を受けることが基本となります。ここでは納税猶予という税務面のメリットが強調されますが、大前提として、先代経営者が無償で株式を後継者に譲り渡すことで本当にいいのか、すなわちキャピタルゲインを得なくていいのか、この最初の重要な「問い」を十分に検討する必要があります(次回コラム参照)。

② 「特例承継計画」の提出はノーリスク/実行は「猶予取消事由」に要注意
今回の特例措置を受けるには、平成35年3月末までに「特例承継計画」を都道府県知事へ提出することが必要で、この計画の提出自体はノーリスクです。ただし、条件が緩和されたとは言え、20項目近くの「猶予取消事由」が規定されています。実行段階においては取消事由についての十分な理解と細心の注意が必要です。

③ 「猶予」と「免除」の意義及び先代経営者死亡時の「みなし相続」の認識
先代経営者が死亡した場合、猶予贈与税が免除になる一方で、贈与株式は先代経営者の相続財産と「みなして」相続税の課税対象となります。贈与税の免除がクローズアップされますが、「猶予」と「免除」そして「みなし相続」について、その意味と税効果を十分に理解することが必要です。

④ 後継者を複数の代表者とするリスク
特例措置では最大3人の後継者への承継が認められ、全員が代表権を有していることが要件です。これにより承継パターンの選択肢が増えましたが、この方法はお勧めしません。親族内の複数代表等が考えられますが、複数の代表者の存在は経営を不安定化させるリスクがあり、その次の世代への承継も複雑化する可能性があるからです。

⑤ 先代経営者相続時における他の相続人とのトラブルリスク
先代経営者の相続が発生した際、納税猶予対象株式も相続税の課税対象となるため(上記③参照)、納税猶予を受けた後継者以外の相続人の相続税額に影響します。遺産分割も含め、こうした点の認識が相続人の中で共有されていないと、思わぬトラブルが生じる可能性があります。

⑥ 担保提供及び継続届出書の提出
納税猶予を受けるには猶予税額及び利子税に見合う担保提供、そして、猶予期間中は継続して税務署への届出書類の提出が必要となります。自社株式の担保提供が想定されますが、その後の株式に係る変更等は大幅に制約されます。提出書類等の実務対応についても先を見通した対応を考慮しておくことが必要です。

現行制度に比べ使い勝手と税務メリットが向上したとされる新事業承継税制は、「後継者が存在し安定経営が見込める高株価企業」等の一部の企業には確かに有効であると思われます。しかしながら、納税猶予期間の様々な制約等を考慮すると、この制度の適用メリットが大きい企業はそれほど多くはないと想定しています。

クライアントの皆さまがこの制度の適用を検討される際には、ご相談を頂く立場として、十分に協議を行いながら対応して行きたいと考えています。

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